―今、経営コンサルタントに求められるもの―
 


 表題のテーマを事務局からいただいた。私自身がこの時期自分に言い聞かせていることを記して、皆様方のご意見、ご指導をいただければ幸甚と思い、筆をとった。
 ここで取り上げたものは、次の6項目である。

1 真因をつかむ
2 決断・判断・判断基準
3 コンサルタントにも求められる信念
4 マネジメント技法には倫理思想がいる
5 部分も全体から診る必要性あり
6 用語の定義を明確にしよう



■真因をつかむ


 経営の相談にあたる場合、顧客が自覚症状を訴える場合と、どこが悪いのか、明確に話せない場合がある。
 前者は例えば、「赤字が続いている。人件費が重くのしかかっており、この人件費を削らねば黒字は無理だ。賃金制度を改革して、変動費化するようにしてほしい。」という場合がそれに当たる。
 後者は、「色々手を打っているんですが、業績が低迷しているのです。皆一生懸命やっているんですよ。誰一人として怠けている者はおりません。それでも、業績が上がらないのです。一体どこがいけないのでしょうか?ぜひ診てください。」というのがそれに当たる。
 自覚または無自覚のいづれの場合も、真因を掴まねばならない。人件費負担が多い。
いわゆる経営分析ですぐに判明す云々は、いわゆる経営分析ですぐに判明する。後者の「色々手を打っている。」というが、その手が正解か否かが問題だ。
 先の例で言うのならば、自覚症状を訴えられても、直ちにそれに対しての処置をとることは控えた方が良い。人件費負担を軽くするというので、直ちに賃金制度などの改革に入ってはならないと思う。その前に、なぜ、人件費が売上高や付加価値高の獲得に結びついていないのかを追求する必要があるからだ。
 人件費は、人に関る費用である。それは人が販売とか、生産とか、技術とかの業務に携わった代償として支払われている。従って、人件費が高い低いというのは、業務の成果に関っているわけである。
 業務の成果となれば、その方針や計画や、指示など、人を動かす側に誤った点はないか。または、動かす側ではなく、動く側の力不足なのか。これを掴まねばならない。これが真因をつかむということになる。
 金魚鉢の中の金魚は、横から見ると大きく見える。これは「事実」である。光線の加減で確かにそう見える。しかし、上から金魚を見れば、「真実」が見える。金魚は原寸で見える。
 そこで、真因をつかむには、

 1 上部のことは下部から聞け、見よ。
 2 下部のことは上部から聞け、見よ。
 3 ある部門のことは、それと対応する他の部門から聞け、見よ。
 4 その会社のことは、外部から聞け、見よ。


このことがコンサルタントが真因を掴むために必要であると思う。


■決断・判断・判断基準


 先の例を続けるならば、人を売上や付加価値に結びつける方策と、人件費削減の方策のいずれかを選ぶかを、決断しなければならない。
 顧客自身が決断を迫られている。当方も決断しなければならない。決断は、きっぱり、決めることだ。そこには判断が必要だ。判断は、正しくなければならない。誤った判断は、許されない。正しい判断をするには、当方に判断基準がなくてはならない。
 判断基準は、当方の学術的知識と臨床体験と、そこから得られた経験知(暗黙知)が、善し悪しの基準となるのだろう。
 顧客は、当方の決断を、顧客自身(意思決定者)の決断・判断・判断基準で決断することになる。
 コンサルタントがその決断に自信が持てない時は、同業の他の方の意見を求めることが大事だ。己の見栄や体裁を考えてはならない。
 最終的には、当方の決断を採るか否かは、顧客側の意思にある。


■コンサルタントにも求められる信念


 コンサルタントは、様々な案件の回答を求められる。特に、不況期においては、与信問題、代金回収、在庫処分、残業規制、サービス残業、雇用調整、配置異動、ワークシェアリング、一時待機、吸収、合併、売却、等々である。
 その時、特に人に関るような場合、当方の理念が問われることがある。人の暮らしには、まず賃金が安定して入手できることが条件だ。それが、もし、不安定になるとしたならば、そのような制度を支援することの是非が当方に問われるのである。
 取引先との関係でも同様なことがおこる。自社が生き残るために信用、信頼関係を裏切る行為の是非を問われることもある。
 これは、経営コンサルタント各自の問題である。そこを明確にしておかなくてはならない。企業存続。オーナーの財産保護(中小企業は企業借入れの際に、個人連帯保証を取られていることが多い。)従業員の生活、幹部か一般社員か。パートかアルバイトか。取引先優先か。顧客か。企業か。
 経営コンサルタント自身の信念が問われる。収入を得たいがために自分の信義や正義に反することを勧めてしまうのは、如何かと思う。


■マネジメント技法には、倫理思想がいる


 経営管理技法は、日々新たなるものが開発されてくる。経営コンサルタントとして、それらの動きを掴み研究し、有効であると確信できた時は、それを関与先に提案することも良い。他のコンサルタントとの差異を持つことは、当事者にとって顧客のより良い評価を受けるためにも必要だと思う。
 しかし、注意しなければならないことは、「技法」は手段であって、目的ではないということである。
 技法には、「科学的な成果」として受け入れられるものと、いわゆる「知恵」として開発されたものがあると思う。前者は、IE,VE,VA、PART、TQC,TPマネジメントなどがあり、KJ法、5Sなどは、後者に属すると思う。
 例えば、初歩的だが重要な役割を持つ「ABC分析」がある。(活動基準原価のABCではなく)それは、製品別に売上構成比をとり、累計売上高の割合を見ると、全製品の10〜20%の製品で、累計売上高全体の70〜80%を占める事がわかる。この製品群をAとし、次の売上高の15%位を占める製品群をBとおく。これで、AとBで累計売上高の95%のものを占めることになる。そして、残りの売上高の5%ほどをCとする、お馴染みの分析である。これによって、生産計画、在庫管理、販売先管理、そして納品管理などが行われるわけだ。
 しかし、Cグループの製品群にあるとして、例えば、医療・衛材関係の業種であれば、Cグループ製品を用いる顧客(患者、医師、看護師など)がいるわけだ。もし、それが欠品したり、製品中止になった時に、それらの方々に及ぼす影響を考えねばならない。その製品は、生産者にとって、生命に関ることも在り得るからだ。
 単に、利益が薄いから、とか、工程上の手間がかかるとかで、その製品は製造中止にはできないのである。メーカーの企業としての責任と義務がある。  コンサルタントは、ここでも、思想が求められることになる。
 最近の経営コンサルティングの対象は、細分化され、専門家されている。それは、とりもなおさず、顧客がそれを求めていることの反映だと思う。その結果、経営戦略が専門とか、利益計画の策定が専門とか、あるいは、組織、販売、購買、技術、開発、人事、総務、経理、財務等々と分業化されている。それも更に細分化され、例えば、「人事コンサルティング」でも、「募集、採用」「適性検査」「教育研修」「賃金」「人事考課」「安全衛生」「カウンセリング」「年金制度」「生涯設計」「再就職斡旋」等々と、より専門化されてきている。
 ここで、注意しなければならない事は、「部分」と「全体」ということである。経営コンサルタントが、顧客から依頼された事項を支援することは当然なのだが、経営は「部分」と「部分」が必ず緊密な繋がりを持っている、ということである。ところが、顧客から依頼を受けた専門コンサルタントは、自分の依頼を受けた課題を、自分の流儀に従って支援し、制度づくりを成果物として提供することになる。だが、それが、他の面とはそぐわないことがあるということだ。
 例えば、「実力主義を導入したい。」と顧客は言う。今までは年功主義であった。勤続年数によって賃金が上がったのだ。しかし、本人の業績が上がらなくても、勤続年数を経ればそれに相当して賃金が上がるのは、この競争激化の時代では、賃金源資の確保もままならない。そこで、「売上高とか付加価値高に応じた賃金制度を導入したい。」となる。つまり固定賃金の変動費化をはかるわけだ。
 賃金専門コンサルタントがその支援に入り、成果物を提出することになる。
 ここで、問題が発生する。営業方針と営業計画に携わっている責任者は、顧客別販売計画を立て、「新規開拓者」「既存顧客でより売上高をあげる先」「既存顧客で現状をしっかり維持する先」「既存客で徐々に取引を縮小していく先」と、これらを販売員別に担当させる方針を打ち出していたとすれば、賃金制度と販売実践とが、かみ合わなくなるのである。
このようなことは、色々ある。IT化によって情報整備をする場合、各部門の求めるものと差が生じ、結局使い物にならないという事態もそのケースである。
教育研修が、各部門が求めているものとミスマッチであることも多く見られる。
経費管理で、肝心の経費有効活用にブレーキがかかるのもそれである。
ここで、留意しなければならないことは、顧客企業の根本的経営課題をしっかりと掴んだ上で個々の課題解決の支援をしなければならないことだ。自分の得手な分野だから、あるいは自分の主張を通したいという思いが先行して、全体の経営課題と離反した、あるいは乖離した支援をしてはならない、ということである。


■用語の定義を明確にしよう


 私は企業内で用いられる言葉には、大別して4つあると思う。

 ●経営に用いられる言葉●
 1.法令用語 2.企業間共通用語 3.業界用語 4.会社用語

である。「法令用語」は国や地方自治体が所定の手続きに基づいて定めたもので、企業が勝手な解釈をすることはできない。「企業間共通用語」とは、どこの会社でも、同じように解釈をする言葉である。JIS,JAS,ISO,HACCPなど国内外で基準となっている言葉である。「業界用語」は、建設業、飲食業等々とその業界に所属していれば、どなたでもわかる。すなわち、共通した定義に基づいて用いられる言葉
である。次が「会社用語」である。これは、
 以上の用語に属さないもので、その会社が独自の解釈をし、定義づけている用語である。もっとも他の定義がある場合でも、「自社においては、このように用いる。」と特定している企業もある。
 意思の伝達は、言葉を用いて行うことが圧倒的に多い。自分と相手と用語は、同じ定義、解釈のもとに行わなければ、正確な分かり合いはできないのである。
 そこで、先の用語の区分の中で、その会社が取り決めている「会社用語」には、特に留意する必要があると思う。
 中堅・中小企業にいる人たちは、学卒の所謂「生え抜き」よりも、途中入社の方々が少なくない。これらの方々との用語は、以前籍を置いた企業で用いられた定義が基準となっていることが多いのである。それぞれ基準の違った用語で話し合ってもすれ違うだけだ。ここでは、私は「自社の経営用語辞典」を作成することを是非お勧めしたいのである。
 最近は、翻訳経営書が多く出版され、読まれている。この場合も可能な限り日本語、漢字で表現されることが望ましいと思う。横文字(カタカナ)で表現されたものを、企業内で用いる時は、必ずしっかりとした「定義」を行い用いることにしたい。カタカナ用語は、「何となくわかる。」のだが、お互い突き詰めていくとあやふやなことがあるからだ。

Copyright(C) 2003 渡辺英幸

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