「経営資源の集中でコア事業の強化とその展開」

1 前提条件


 小論のテーマを述べる前に、前提条件をまず述べておきたい。
 企業は環境に適切に対応することが求められる。このことは言うまでもないことだろう。
 経営資源を集中させて、コア事業を強化し展開するのであれば、なおさらのことである。そのために、次の作業を行うことが前提となる。
  1. 時代の変化と自社への影響の分析
  2. 経済環境の変化と自社への影響の分析
  3. 自社の技術の強弱と得手・不得手の分析
  4. 現在の市場(マーケット)の状況及び将来性とその市場における自社の強弱と得手・不得手の分析
  5. 自社の経営資源の強弱及び得手・不得手の分析
  6. コア事業の強化及び展開のための経営資源集中を可能にする適切な制度と技法の選択と適応
 これらの作業がなされて、はじめて小論の主題に対応できるのである。


2 自社のコア事業の明確化


 コアとは、文字通り「核」である。核となる事業は、基本的には「技術」によって裏付けされているはずである。モノづくりの企業であれば、「開発技術」とか「生産技術」とかの分野で、何らかの技術があるはずだ。商業やサービス業であれば、「スキル(技能)」が「技術」に置き換えることができる。「顧客管理技術」、「品揃え技術」、あるいは「商品陳列技術」であり、「迅速に対応できる接客技術」である。
 それらの「技術」が「核」となる「事業」の裏付けとなっており、それが他社の追従を許さぬ力があるのを「コア事業」というのである。それは長年の努力で得られた顧客とコア事業との信頼の象徴であるブランドの強さでもある。

 中堅・中小企業をみるに、次のように二つのタイプがある。
 1.開発型
 2.下請型
 この両タイプで、コア事業を有している場合、取引相手との関係特徴は、次のようである。
 開発型は、自社の方から関係先に積極的に提案・提言をしていくタイプである。これは、相手方とも対等であり、生産や販売などにおいても自社の条件を明確に訴えることができる。
 この場合、相手先は、この開発型の製品や技術やサービス、あるいはアイデアなどを、自社の経営の中に組み込んでいることが多い。
 下請型は、発注先の事業の一部分を、当方が埋めることで経営を成り立たせるタイプである。
 相手先は、当方の熟練した技術、要員結集力、業務の高度な処理能力が魅力なのである。販社やサービス業であれば、上等な顧客を持っていることや、販売実績があること、あるいは情報収集力や情報解析力が魅力であって、相手先が自社を外すことができないのである。
 以上のような「核となる技術(スキルを含む)」に裏付けされたものがないところは、先ず自社の「コア技術」、つまり「他社の追従を許さぬ、あるいは追従するのに時間がかかる技術」を持つことから始めなければならないのである。
 いずれにせよ「コア事業」は、関係する顧客満足度が極めて高い事業をいうのである。



3 自社のコア事業の強化

 自社にコア事業がある場合、そのコアをさらに深め、あるいは広めて、競争相手との差異をより一層ひろげなければならない。
 企業経営は比較の上で成り立っている。顧客は常に複数の企業を比較し、自社にとって貢献してくれる相手を求めているのである。これは、製造業でも建設業でも商業、サービス業でも変わりがない。
 コア事業を強化する目的は、競争相手より優位に立つことにある。その時注意をしなければならないことがある。コア事業の強化で失敗をするのは、競争相手を「会社分析」のみをして強化対策を立てることである。競争は会社と会社が競い合うのではない。実際には「製品」「商品」そして「人」である。そしてそれらを動かす作戦なのである。
 したがって、相手の製(商)品(技術を含めて)と自社のを徹底的に比較分析し、自社が優位に立つ方策を考え、実施することである。このことは、「人」についても同様だ。競争相手は、「会社」ではなく、そこから出向いてくる「人」が、自社の「人」よりも優っていれば、当方は破れるのである。また作戦も同様だ。
 強化の法は、このように競争相手の「製(商)品と人」を具体的に分析することから始まるのである。
 その場合、最も大事なことは、何故、競い合うのかを明確にすることである。それは「お客様のお役に立つ」以外なにものでもない。顧客満足を得るために、自社の製(商)品は、他社のそれよりも品質がより優れていなければならない。顧客満足を得るためにプレゼンテーションが、より優れていなければならない。顧客満足のため納期が正確でなければならない。顧客満足のために相手の求めるプライスに対応するためのコスト・ダウンをはからねばならないのである。そのために競争相手と「技」を競い合うのだ。
 相手を蹴落とすためではない。顧客に喜んでもらうための競争だ。モノが売れないのは、顧客満足の条件が満たされていないからである。



4 コア事業の展開法


 中堅・中小企業が生きるには、力の差が歴然としている強い相手とぶつかり合うのは、原則として避けた方がよい。特に大企業の事業領域で真向勝負を挑むのは得策ではない。中堅・中小企業の生息できる領域でコア事業を展開することだ。ここでいう「展開」は、コア事業を形成する製(商)品の「技術」を深化させる意味ではなく、横に領域をひろげていくことと理解していただきたい。
 コア事業を展開するには、いわゆるニッチの分野で展開するとよい。大企業の強さは、中堅・中小企業にない資本力である。弱さは狭いフィールドでの機動性がないことである。そこで資本を投入しても効果が量的にまとまらないのは、自ら手を出すのではなく、資本提携で口を出すか、人を出すかで参入してくる。あるいは分社という形で参入してくる。しかし中堅・中小企業のもつ顧客本位の臨機応変の経営は、体質的に合わないのである。
 そこで中堅・中小企業は、自社のコア事業に関連した分野で横展開をしていくとよい。この場合のポイントは、技術、使用原材料、流通チャネルなどが共通・類似または応用可能であるとよい。その上で、生産個数、顧客数、高度な諸技術(高度技能を含む)が、大企業が参入しにくい市場に出るのである。
 このニッチ作戦は、エコロジカル・ニッチの応用も可能である。それは今まで他社が生息していたが、何らかの事由で撤退し、市場が空いた場合に、素早く入り込み優位性を獲得するのである。



5 経営資源の集中法


 経営資源は、一般的にヒト・モノ・カネ・情報・時間などがあげられる。この内、三大資源は、なんといってもヒト・モノ・カネである。そしてつきるところ「ヒト」が成否を決めるといってよいだろう。適材のヒトがいれば、モノ・カネは工面することができる。モノやカネがあっても、それを適切に用いるヒトがいなくては役に立たない。
 コア事業を強化し展開するための人材は、すでに述べた状況に対応する人が、まず自社にいなくてはならない。しかし、残念なことに人材は豊富ではない。そこでコア事業に最適な人を当てると、他が弱体化するおそれがでてくる。そこを複数の人で「死守」する必要がある。その鍵を握るのがほかでもない経営トップ自身である。自分もコア事業の強化と展開に加わる必要があるのか、あるいはそこは適材に委ね、自分は「弱体化事業の死守」に入るかを決めることである。また、弱体化する事業は見捨て、コア事業の強化及び展開の成功に専念する作戦もあろう。
 一般的には、経営トップがコア事業の強化と展開の陣頭に立つのがよい。それは臨機応変に決断をし対処(対策と処置)する必要がでてくるからである。そのとき即決即断である。これは経営トップだからできるのである。そして「死守」する事業部門を担当する実力者には、経営トップは次のことは最小限明確にしておく必要がある。
  1. 死守すべき期間、得意先、製(商)品を明確にする。
  2. 権限の範囲を明確にする。
  3. 経営トップに対し期待する責任と義務を明確にする。
 資金については用途と調達を明確にした「資金運用計画」が必要だし、モノについては固有技術(技能を含む)を明確にし、そのより進化をはかる「技術及び製(商)品計画」を用意しなければならない。
 経営資源の集中化は、先に述べた経営の作戦に対応し、その作戦は経営資源の集中化の計画に基づき再三検討され、経営トップの決断で実践に移されることになるのである。


Copyright(C) 2002 渡辺英幸

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