お作法 不作法 回転ずしのおきて
 −渡辺英幸 取材協力記事 −
朝日新聞 2001年6月23日号 掲載



今やカウンターと同じ
  すべて注文してもよし


 「ちょっと、すしでも」と思ったら、どこへ足を向けますか。最近は回転ずしが多いのでは?安く、気軽に好きなものを好きなだけ食べられる。カジュアルの極みのようなスタイルですが、これほど当たり前になった今、それなりの「お作法」ができつつあるのではないでしょうか。

 すしがレーンにのって流れてくるのが、回転ずしの基本形。とはいえ、職人が内側に立ち、流れていないネタの注文を受ける店が今の主流だ。
 「注文の仕方には、こつがありますね」。老山人のハンドルネームで「回転寿司公社」と題したホームページを開き、回転ずしをテーマにしたコラムを書いている金沢市の会社員(49)は言う。
 注文する際、「トロ下さい」と言うと、「何枚ですか?」と尋ね返され、つい「じゃあ、2枚」などと言ってしまうのだという。「なんだか、1枚とは答えにくくて」と老山人氏。「だから、トロ1枚、と後ろに1枚を付けるんです」
 確かに、気の弱い人は、初めから皿数をつけて注文するのが、いいかもしれない。

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 東日本でチェーン店「平禄寿司」を展開する平禄(本社・仙台市)東京支社でスーパーバイザーとして店舗を統括する浜口均さんは「流れているネタだって、職人に注文して構わないんですよ」と話す。レーンのすしには手をつけず、すべて注文ですませる人さえいる。「昔は嫌われたものですが、今はお客様のニーズに合わせるのが第一です」
 ただ、一度にたくさん注文すると、職人が覚えきれないことがある。「2品程度にしてもらったら、ありがたいです」と浜口さん。スムーズにやりとりするには、声をかけやすい席に座るのもポイント。ネタケースなどに視線が遮られず、職人さんの顔が見える席が、おすすめだ。  「職人は店の司令塔」と話すのは、すし和食店経営研究会代表、渡辺英幸さん。
 渡辺さんによると、回転ずしは今、第3次ブームにあるという。70年代までの創成期が第1次、80年代半ばまでの郊外進出が第2次。今回のブームは93年ごろから。バブル崩壊で、これまで高級すし店や料亭に納められていた良質のネタが回転ずしで安く食べられるようになった。これに加え、職人中央配置形式の普及がきっかけになった。
 「もう市場は成熟している。今後は経営ノウハウのある店が生き残る時代になる」と渡辺さん。職人が店内に気をくばり、注文しそびれている客を促すなど、客の様子に合わせたサービスをすることが、繁盛の条件という。

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 どうやら、職人との対話が、上手な利用のツボらしい。でも、それって、本来のカウンター形式のすし店と同じじゃないだろうか。
 「すし店の魅力は、カウンターで店主とやりとりしながら味わうこと。なじみの店なら価格もわかるし、おすすめも食べさせてもらえた。いまはこんなスタイルも廃れつつありますが」。旭屋書店専務などを務め「すしの美味しい話」の著書もある中山幹さん(75)は言う。「回転ずしへ行く人たちにカウンター店の味わいも体験してほしいですがね。握りというと色々と能書きが多いですが、元々屋台から生まれたもので、本来難しい作法なんかないんです」

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