トラブルの調停、債権の取立て代行など
“会社を食い物にする輩”のワナにはまらない法

 −越智訓男−取材協力記事
―企業実務 2002年9月号 掲載



 どこから嗅ぎつけてくるのか不思議だが、トラブルがあったときなど、それに乗じて会社に入り込み、食い物にしてやろう、というような輩がよく現れる。そうした危険な人物の介入を防ぐ方法をまとめた(編集部)

危ない輩の本質は変わっていない

 景気が悪くなると、いろいろな形で会社を食い物にしてやろう、という輩が現われるものだ。
 「形は変えていても、その手口の根本的なところはいまも昔も変わらない」と、『危険な人物の見抜き方』に関する多数の著書をもち、横浜商工会議所で専門指導員を勤める関根宏而氏は言う。
 「中小企業の経営者が一番頭を痛めるのは、300万円以下の債権回収でしょう。弁護士への依頼は時間も費用もかかると考えてためらう。そうしたときに、債権回収をやってくれる知り合いを紹介するとか、困った債権があれば買い取りますといった業者が近づいてくることがあります。でも、一度依頼してしまうと、そのときは多少回収ができたところで、後からの悪影響のほうが絶対に大きくなります」
 関根氏によると、特に最近出てきたのが、「サービサーという法律が成立してまして、私どもも債権回収業を生業としています。」などという業者だという(実際にはサービサー法で扱える債権には中小企業の回収遅れの売掛債権は入らない)。
 「海外から特許トラブルが起こったときには、私どもにご相談ください」
 技術系のベンチャー企業F社を営むT社長のもとには、そんな電話がよくかかってくる。いつもは聞き流していたが、T社長はふと正体を確かめたくなって、その会社に電話をかけてみた。
 「何か起これば無料で応対しますといってましたが、話を聞いていくと、結局は指示に従っていくと50万円、100万円と必要になってくる。ああ、やっぱりそういう業者だなと思いました」
 とはいえ、厳しい経済環境下、会社存続の責任を一身に背負い、資金繰りに汲々となっているトップは、「少しでも回収できるなら」とか、「穏便に話が済むなら」と、つい魔が差してしまうこともあるかもしれない。
 危ない輩にだまされたケースとはいえないが、F社にはかつて、ベンチャーバブルのなかで融資を申し出るベンチャーキャピタルが日参した時期があった。そうしたときも「当社は借りる必要がありません」と断わり続けたが、必要のない資金の援助を受け、事業規模を大きくして失敗した経営者も少なくなかった、とT社長。甘言につられた結果という点で、同じタイプの落とし穴かもしれない。
 そうしたリスクに対して目を光らせ、適切な助言者となるのも、総務部長がなすべきリスクマネジメントだろう。

部下にも消費者教育を

 紛らわしい名称の請求書を送ってきたり、小冊子や高額な商品を送りつけて後から代金を請求したりといった手口は、いまも少なくない。
 外資系の製薬会社の総務・広報等を経て、現在は主に総務部門のリスクマネジメントの指導等に当たっている越智訓男氏((株)会社業務研究所経営コンサルタント)も、前職では怪しい文書や請求書を受け取ることが多かったという。
 「分厚いアンケート用紙が送られてきて、社内の担当者が不要として処分した。そうしたらアンケートを出したという人物が訪れて『答えないなら用紙を返してくれ』と絡んできて、担当者が困ってしまった。そこで私が会って、『もう一回アンケートの中身を検討して、答えられるものなら答える』としか返事をせずに、要求を突っぱねていくうちに、そのうち向こうもあきらめました。」
 内容証明付きで実物を返送するという手もあるが、郵送費の負担が生じる。
 頼んでもいないのに勝手に送られてきた商品については、14日間(事業者に引取りを依頼した場合は7日間)保管すれば自由に処分してよいというネガティブ・オプションや、一定期間の契約解除を認めるクーリング・オフの基本について、(担当者不在のときに代理の者が安易に受け取ってしまわないよう)社員に教育しておきたい。

招かれざる客が来たらどう対応するか

 債権回収実務に詳しい経営問題研究所所長の本田開氏も、最近、債権取立屋らしい人物のいる交渉の席につく機会があった。
 A社から下請工事を請け負ったB社が、一部をさらに二次下請のC社に発注したところ、C社の仕事がいい加減で、いろいろと不具合がでてきた。その追加工事分の負担をA社に要求されたB社が、値引きをC社に依頼したものの、明確な了承をもらえなかった。
 そして、C社は、「B社が工事費を払ってくれない」とA社に直訴する一方、取立屋らしき男を連れてB社に未払い分の請求にきた。
 B社の交渉人として間に入った本田氏は取立屋らしい男の名刺すら受け取らず、交渉のなかでも一切無視した。B社の落ち度は譲歩しつつ、応分の負担をさせたうえで「工事代金について、債権債務の一切の関係はなくなりました」と一筆書かせて落着とした。
 「その取立屋はC社が取立てを依頼したというより、C社に債権をもっていることから、それを回収するために同行してきたのではないかと思われます。」
 厄介な交渉事に巻き込まれないためには、契約書はもちろん、打合せの際の議事録を欠かさずつくって「水掛け論」を防ぐための防衛策を張っておくべきだ、と本田氏はアドバイスする。

つけいる隙を与えない10のポイント

 今回の取材で聞いた話を総合して、実際に招かれざる客が来たときの対応のポイントを本誌なりにまとめていきたい。
1 不意の客には誰が応対するのか、
  窓口を一本化し、社員に徹底しておく

 トラブルになりそうな相手の電話や訪問を受けたときには、必ず担当者(たとえば総務部長)が一括して応対すると決め、窓口を一本化する。同時に社員に周知徹底する。総務部長が留守で社長が在社したときなどでも、約束のない訪問者が来た場合には、担当者不在といって突っぱねさせる。
2 トップと面識をもたせない
 一度トップに会わせてしまうと総務部長を超えてトップに近づくことが防ぎにくくなる。「社長を出せ」と相手がいくら言ってきても、「その手のお話はすべて私が承ることになっております」といって接触させない。
 そのためには、社長がいるかどうか、訪問したときに把握させないよう、少なくとも外から見える場所には社長の席を設けない。
3 安易に次の約束をしない
 「きょうは社長はおりませんので」というと「じゃあいるときを教えろ」と、相手が迫ってくることがある。そういう場合に「○○日ならいると思います」というような受け答えをしてしまうと、その日に約束したかのように振る舞われてしまう。「社長は約束のない方とは会いません」「多忙なので約束はできません」と、次の訪問に言質を与えないようにする。
4 断りの際に「一切しない」といった言葉は避ける
 なんらかの形で寄付を要求されたとき、「当社は一切やっておりません」などと答えると問題があるケースがある。
 どこかで寄付に応じていたのを相手が知って、「この前は寄付してないといっていたが、こちらの団体にはカネを出しているじゃないか」と難癖をつけてくることがあるからだ。「当社が寄付をする場合は、必ず加盟団体を通して行うことになっておりますので、そちらに申し出てください」というように話をもっていく。
5 名刺交換をしない
 社長の名刺はもちろん、総務部長の名刺もできれば渡したくないところ。どのように悪用されるかわからないからだ。相手が名刺を出してきたときでも、「いまちょっと切らしておりまして」といって断る。
6 応接室では複数で応対する
 数的優位に立たれると心理的な圧迫感を感じがち。会社に難癖をつけてくるのは一匹狼タイプが多いが、若くて屈強そうな男をつれて、交渉そのものは慇懃な年配者が行なうことによって、怖い印象を与える手法がある。応対する側も部長プラス部下、というようにできれば複数で応対したい。二人いれば、いざというときどちらが外に助けを呼びに行ける。
 また、防犯カメラなどの機器も安くなっているので、会議室には設置しておきたいところ。実物がなくとも、いかにもあるように見せかけておくと、相手にとっては多少のプレッシャーにはなる。
7 必要以上におびえない
 いくら怖そうに見えても、実際に手を出してしまえば警察の介入を招く。殴られたりすれば警察を呼べると思えば、それほどおびえる必要はない。とはいえあまり喧嘩腰に出ると、気の短い相手に逆ギレされて状況を混乱させることがあるので、自然体で応対したい。
 日常的にも近くの警察署とはなるべく仲良くして、顔を覚えておいてもらうとよい。
8 話を聞く姿勢は見せる(ただし見せるだけ)
 新聞沙汰になるような不祥事等が発覚したとき、もちろん当事者には会社として真摯に謝罪し、できる限りの詫びはすべきである。ところが、ニュースで聞きつけて、直接は関係ないのに「迷惑料を払え」とか「謝罪広告を出せ」など第三者が介入してくることがある。委任状の有無や経緯について細かく確認していけば、たいていは「どこかで聞きつけただけ」というのがわかってくる。
 言い分を聞く姿勢を見せれば、相手も戦闘的な態度を続けられなくなる。あとは何時間でも喋りたいだけ喋らせて、相手の疲れを待ってお引き取りを願う。
9 交渉中の証拠を残す
 ビデオというのは理想だが、メモ、テープによる録音など、水掛け論を避けるために、交渉の過程でもなるべく明確な証拠を残すようにする。
 新聞・雑誌の取材依頼を装って後から購読料や掲載料等を請求する媒体などについても、最初に「それは費用がかかるのか」といったことを確認し、文書で金銭面の条件まで明示した依頼状を要求してから許諾を判断するとよい。
10 交渉相手を間違えない
 トラブルの当事者が第三者(たとえば交通事故を起こしたときのいわゆる「示談屋」など)を連れてきて、会話に入ってくるときには、「おたくは関係ないでしょう」と話の腰を折り、もともと交渉すべき相手とだけやりあう。
 不動産がらみのトラブルの場合などは、権利関係がどうなっているのか登記簿を確認し、交渉相手が誰かはっきりさせる。
           ☆
 それでも危険な輩と関係ができてしまったときには、弁護士などの専門家に相談して善後策を示唆してもらう(とはいえ、弁護士資格をもっていてもすべての弁護士が信頼に足る存在ではないので、飛び込みで探したりするのは避けたい)。理想は長年付き合いがあり、この人なら任せても大丈夫、という確証がもてる弁護士だ。
 甘言や恫喝に惑わされないという、きっぱりとした姿勢を打ち出しておけば、「そんな会社をだましにかかるのは効率が悪い」と、食い物にしようとする側も自然と離れていくものである。


公的(?)機関の仮面に注意!

 会社を食い物にしようと、相手の無知につけこんで、コンサルティングやアウトソーシングを請け負って法外な料金をとろうとするケースも様々だ。
 中小事業主が労災に特別加入したいときには、労働保険事務組合に事務を委託する必要がある。労働保険事務組合そのものは厚生労働大臣の認可を受けた存在だが、なかには暴利を搾取しようとするたちの悪い団体もあるようだ。
 合併統合で新設されたP社は、E労働保険事務組合に年間1億4,000万円で会社新設の際の社会保険事務などを一括して委託した。E組合のトップの説明を受け、組合なら厚生労働省の認可を受けているからという安心感が働いていたのだ。
 ところがE組合側から当初2名、最終的には4名がP社に派遣されたが、必要経費を考えても妥当な請負額は半値以下だった(実はP社は2人来た社会保険労務士1人につき年1,000万円の人件費を負担させられていたが、実際にE組合から社会保険労務士本人に支払われていたのは300万円台だったそうだ)。
 ミスやトラブルも頻発し、質的にも問題は多かったようだ。
 内部管理の必要性を感じたP社は、「すべてお任せ」の状態から、社内にしっかりしたマネージャーを置き、管理するように方針を転換した。その一方で2年目の契約は1億円に値切ったものの、サービスに対する不満は消えなかった。そして、結局、翌年には別の社会保険労務士事務所に乗り換えることになった。
 振り返ってみると、E組合のトップは営業の際に“誠実さ”を前面に押し出すタイプで、実務のことは担当者に聞いてくれというような言い訳でごまかすことが多かったという。
 もし「公的そうな組織」という仮面を見抜き、また実務に詳しい総務担当者がアウトソーシングの相場を知ったうえで契約を考えていれば、P社も無駄な出費をせずにすんだはずである。


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