はやり 入門講座 トロあぶり、キャビア巻く
 −渡辺英幸 取材協力記事 −
日本経済新聞 NIKKEI プラス1 2002年4月6日号 掲載



高級回転ずし
  創意工夫で楽しみ倍加


 安くてしかもネタはなかなかうまい。これはすでに回転ずしの常識となった。それに加え、この2年ほどで目を見張るのが、創意工夫をこらしたメニューを並べる高級回転ずしの人気。海外で評判の「スシロール」を逆輸入する店、キャビアやフォアグラをネタにする店などが目白押し。回転ずしは新発想で勝負する時代に突入している。

 東京・銀座のメーンストリート、中央通りに店を構えるのが「回転寿司Kazu銀座八丁目本店」。ガラスの扉をくぐると、目に入ったのは、高級すし店のような大理石のカウンターの上を往復するように回るすし皿だった。
 しょうゆさしは、おしゃれな南部鉄瓶。後ろに流れる音楽はジャズと演出に凝ったこのお店の一番の売りは、手が込んだネタ遣い。「トロ、あぶってくれる?」。客からの注文に、小さな七輪と焼き網を出して本マグロの厚切りの大トロをのせ、炭火でささっと火を通す。崩れないように軽く握り塩をふると「このままお召し上がりください」。
 元は高級すし店だったのを約3年前、銀座進出を機に回転ずし店に衣替え。高級店時代の地方漁港からの直送仕入れをそのまま生かす。同店の杉田直樹さんは「昔の店なら1カン2000円だった大トロを2カン500円で出す。1品では赤字だが、宣伝価格と考えて質の高いまま勝負している」。
 江戸前握りはもちろん、ダチョウ肉の刺し身やアボカド、すし専門でない和食の職人の参加でできた「すしのてんぷら」といった個性的な料理が受けている。「明朗会計という回転ずしの利点は取り入れたが、ネタは高級店と変わらない。そこに多くのお客さんが驚き、気に入ってくれた」と杉田さんは話す。

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 「色とりどり、形もさまざまなネタが皿に載って流れてくると、楽しさが生まれる。新鮮な味にアート性が加われば、楽しみは倍加する」と話すのは、3年前に東京・原宿に「柿家鮓(かきやずし)」を開いたフォーシーズ(東京・港)の竹内真珠子事業部長だ。
 1皿60円の細巻きから味わえる柿家鮓の人気ネタはノリを内に、ご飯を外にしたアウトサイドロール。具にアボカド、アスパラ、サニーレタスにサーモンを組み合わせた柿家ロール(240円)などサラダ感覚があふれている。見た目が緑、赤、白、黒とカラフルで印象的だ。
 ゴマ油を利かせたハワイのマグロ丼「ポキ」や、サーモンにオニオンスライスとマヨネーズで味付けるといった新しい工夫は、「海外で受けるスタイリッシュな回転ずしの魅力を逆輸入した形」(竹内さん)。

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 約180店舗のすし店店主らが参加して勉強会を開く、すし和食店経営研究会(東京・目黒)の渡辺英幸顧問によると、回転ずしは1970年代の創成期、80年代半ばの郊外進出の後、93年ごろから良質ネタを食べられる店が増え第三次ブームを迎えた。
 「ところが居酒屋、そば屋、中華店などでメニューにすしを加えるところが増え、安くてうまいすしは珍しくなくなった。そこで他の店にない独創的なメニューが必須となった」と渡辺さんは最近の高級回転ずしブームを解説する。
 独創的なお店の代表といえば、昨年、東京駅丸の内南口にできた「東京食堂セントラルミクニズ」だろう。フランス料理の有名シェフ三国清三氏が監修。1皿150円から650円の江戸前ネタの充実とともに、豪シドニーからすしの若手料理人を呼び、開発したメニューは、通常のすしを超えた品ぞろえだ。
 一口大の香ばしい自家製クロワッサンにツナ、カマンベールチーズと酢飯をはさんだ「パリロール」(750円)は驚きの演出。しかし、食べてみると「しっくりとくる軽快な味。パンとしゃりは、意外に合っている」(30代の男性会社員)と評判だ。
 他にもフォアグラ、マグレ鴨(かも)、オマールエビ、キャビア、カニの空揚げ、牛タン、フィッシュアンドチップスなど、変わりネタがそろう。
 すし和食店経営研究会の渡辺さんは「すしは国際商品。仏などでは三つ星シェフが開く回転ずし店が料理として高い評価を受けている。国内でも他のジャンルの料理人の参入や海外からの逆輸入で、回転ずしはさらに変革していくだろう」と予測している。

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