「月刊・ビジネスデータ」2001年1月号 P6〜P9 掲載
  越智 訓男 インタビュー記事



 会社も社員も、ともに成長し発展していくために重要視された“社内行事”の姿が変化してきた。
 昔といまとを比べて何が、どのように変わったのだろうか。



1月
 元旦(1日)
 ・仕事始め
 ・初荷
 ・新年会
 ・賀詞交換会
 (名刺交換会)
 ・年始回り
 成人の日(8日)
 ・社内成人式

2月
 節分(3日)
 建国記念の日(11日)

3月
 ・防火・防災訓練
 ひな祭り(3日)
 春分の日(20日)



 
 
 
●仕事始め
   


 仕事始めに際しては、社長自らが新年のお祝とともに1年間の経営方針などを発表する「新年初出式」が行なわれるのが一般的。かつては、式のあとすぐ通常の業務に入るという企業は少数派で、社員は「社長が挨拶回りから戻ってくるのを待ってからスタートする社内新年会まで、届いた年賀状に目を通したりしてのんびりと時間をつぶしていた」(製造・A社)ようだ。また、仕事始めでは、若い女性社員が振袖姿で出勤してくることが珍しくなかった。

   


 従来どおり新年初出式を実施する企業がほとんどだが、式のあと、1日仕事をしなくても済まされるわけにはいかなくなり、社長の新年の挨拶もそこそこに通常の業務に取りかかるという企業が多くなってきた。このため、講堂や会議室に集まって盛大に行なう式は全体に減ってきて、代わりに普段の朝礼を新年らしくする程度で簡素化する傾向が出てきている。また、仕事始めにおいて女性社員の振袖姿を目にすることも少なくなってきている。

 
●年始回り
   


 初出式を終えると、取引先・銀行・官庁などへ「挨拶回り(年始回り)」に出かける。ハイヤーを利用して社長以下役員が連れだって順番に得意先を訪問する光景は、仕事始めにおける「風物詩」といえた。

   


 何事においても効率化が叫ばれる昨今にあっても、年始の挨拶回りの慣習だけは生き続けているようだ。得意先へ新年の挨拶をしなかったからといって実害があるわけでもないだろうが、「行かないと落ち着かない」という向きのほうが多いようだ。官庁への挨拶回りについては「普段は訪問しづらいけれど、年始(年末)だからという大義名分が立つので行きやすい」(医薬・B社)という声もある。一般には名刺を置いてくるだけになってしまうのだが、運が良ければ“実力者”に出会えることもなくはない。大きな世の中の変化がない限り、この慣習は続いていくにちがいない。

 
●賀詞交換会(名刺交換会)
   


 「賀詞交換会」とはいまや聞き慣れない言葉だが、要は新年に行なわれる業界団体や経済団体主催の集まりのこと。もともと人が集まって賀詞(祝いの言葉)を交換するところからこう呼ばれている。ただ実際は、名刺の交換会であることが少なくない。業界団体や経済団体の集まりという性質から、バブルの崩壊までは豪勢に行なわれたケースが多かった。

   


 業界にもよるが、決まって毎年行なわれるものであり、突然やめたとか中止したという例は聞かれない。ただ、不況を反映してかバブル期と比べると「華やかさ」がなくなり、全体に簡素化する傾向にあるようだ。

 
4月
 エイプリルフール
 ・新入社員入社式
 ・新入社員歓迎会
 ・花見
 みどりの日(29日)

5月
 ・ゴールデンウィーク
 憲法記念日(3日)
 国民の休日(4日)
 こどもの日(5日)

6月
 ・衣更え
 ・株主総会

●新入社員入社式
   


 社内行事のなかでもきわめて重要なものが「新入社員入社式」だ。企業にとっては、新入社員の士気を高めさせるとともに、社外へのアピールも考慮しなければならないことから、最寄りのホテルなど外部の会場を借りて行なう企業が少なかった。

   


 入社式の内容うんぬんよりも式そのものが減ってきているのが大きな特徴だ。規模や業種にもよるが、不況による採用減、通年採用の一般化などで、「ここ何年間か4月入社の新人ゼロ」という企業も少なくない。また、仮にあったとしても少人数であるからだ。「背広姿がぎこちない新人の姿は春のオフィス街の光景だったけれど、いまは社内はおろか街でも見かけることが少なくなってきているようでさびしい。」と、ある企業の総務部長は嘆く。ただし、入社式が減ってきた代わりに「新人歓迎会」を盛大に行なうところが増えてきている。

 
7月
 ・夏物商戦
 ・暑中見舞い
 ・お中元
 海の日(20日)
 ・地域夏祭り

8月
 ・夏期休暇
 終戦記念日(15日)

9月
 敬老の日(15日)
 ・交通安全教育
 秋分の日(23日)
 ・慰安旅行

10月
 ・衣更
 体育の日(10日)
 ・社内スポーツ大会
 ・健康診断

11月
 文化の日(3日)
 勤労感謝の日(23日)

12月
 ・歳末商戦
 ・お歳暮
 ・年賀状
 ・忘年会
 天皇誕生日(23日)
 クリスマス・イブ(24日)
 ・クリスマス・パーティー
 ・仕事納め

●慰安旅行
   


 かつて「慰安旅行」といえば、熱海などの温泉地へ出かけるのが通例だった。芸者をあげて大宴会をひらいて盛り上がったところも多かったと聞く。また、バブル時には豪華な海外旅行に出かける企業も少なくなかった。

   


 経費節減の祈りからかもしくは若い人がいなくなったためか、かつてほど慰安旅行の需要はなくなった。ただ、そうはいっても、まったくなくなったわけではない。これまで全社的な行事として位置付けられていたものが、最近は部や課など比較的小単位で親睦を図るために行なわれるイベントになってきたのだ。部や課で独自に旅行を企画して出かけ、その費用の一部は企業が負担するというやり方が多くなってきている。
 また、日程は1泊2日がせいぜいで、週末金曜日・土曜日に予定を組んで、日曜日は休ませるというパターンが一般的だ。景気のいい企業では、海外旅行に出かけるところも少なくないが、行き先としては日本から近い台湾、香港、シンガポールかハワイなどが一般的である。

 
●社内スポーツ大会
   


 慰安旅行と同様、「社内スポーツ大会」は社内行事の定番の一つとして各社で行なわれていた。通常、社内スポーツ大会は社員の家族を招いて行なわれる。社員の健康増進という面もあるが、家族を含めたコミュニケーションを図れる手段として力を入れて実施する企業が多かった。

   


 基本的に「全社員参加」のところが少なくないため、強制されることを嫌う若い社員のあいだで敬遠されがちな行事となった。多くが休日に開催されることも嫌われる理由の一つだろう。不況の影響をうけて「開催を見送る」というケースも多くなってきた。大手企業が抱える競技部も近年になって廃部が相次いでいる状況もあって、一般企業の社内スポーツ大会も中止または縮小の傾向が見られる。

 


季節に関係なく
 ・社員研修
 ・創立記念行事
 ・永年勤続社員表彰

 
 
 
 
●社員研修
   


 「社員研修」といえば、むかしは4月入社の新入社員を対象とした「新入社員研修が代表的なものだった。一定の期間をかけて、所属部課長が新入社員が早く戦力となるように熱心に教育した。

 
   


 通年採用が一般化してきて、4月にかかわらず年中研修が行なわれるようになったのが大きな変化。最近は、若手社員に限らず管理職も対象に広げて研修が行なわれることが増えてきている。若手社員をじっくりと育てる余裕もないことから、企業は即戦力を求める傾向がある。一方で、若手社員のほうも転職が当たり前になってきたこともあり、2〜3年すれば退社してしまうケースが多い。「せっかくコストをかけて育てたのに辞められた」これまでなかった悩みを企業は抱えるようになった。



●永年勤続社員表彰
   


 一般に「永年勤続社員表彰」は、勤続15年、20年といった区切りのよい時期に表彰するケースが多い。終身雇用や年功序列制度が崩壊する前の時代には、20年、30年と長く勤めて表彰されるケースが常だった。会社への功績を讃えてリフレッシュ休暇を与えたり、記念品としては金杯、銀杯を手渡されることが多かった。

   


 中高年のリストラが進んでいる影響か、かつてのように20年、30年と勤めあげる社員はめっきり少なくなってきた。手渡される記念品も様変わりしてきて、勤続年数に応じて好きな商品を購入できる「商品券」や、「旅行券」が渡されるケースが増えてきた。

 


「社会慣習の変化」「リストラ」「社員の意識変化」で減った社内行事
 
 仕事始め(新年初出式)から仕事納め(納会)まで、1年間で企業が定期的に行なう“社内行事”はざっと30種類以上。それぞれに歴史的意義のあるものばかりだ。しかし、最近はこうした社内行事が、その姿を大きく変えてきた。姿が変わったというよりも、むしろ行事自体が行なわれなくなってきていいるといったほうが正確なのかもしれない。会社業務研究所客員研究員の越智訓男氏は、「少なくとも、女性社員が振袖姿で出社してくるような、かつての仕事始めに代表される社内行事は先細り」と話す。
 とりわけ昔と比べて変化があったものとして、「仕事始め」のほか、「新入社員研修」「中元・歳暮」「慰安旅行」「社内スポーツ大会」「永年勤続社員表彰」などが挙げられる。これらを見渡すと、ある法則が浮かび上がってくる。「社会慣習の変化」「リストラ(業務効率化)、経費節減」「社員の意識変化」だ。
 たとえば、仕事始めに女性社員の振袖姿が見られなくなったのは、社会慣習の変化によるもの。「むかしは、女性社員は職場の花などといわれて、振袖を着ることが自然と決まり事のようになっていたのかもしれません。しかし、近年になって自立した女性の意識とともに、そうした感覚が薄れてくるにつれて振袖姿も減ってきたように思います」(越智氏)
 不況による企業のリストラの影響も大きい。企業では、直接的な経費節減索として、慰安旅行や社内スポーツ大会などの実施を取りやめたり、規模を縮小する例が少なくない。とくに91年代に入って叫ばれ始めた「虚礼廃止」の動きも浸透してきて、中元・歳暮のやり取りを廃止する企業が年を追うごとに増えてきている。経費節減のためともとれるが、東京都内のあるシステム開発会社では「平成5年から虚礼廃止を打ち出して、会社としての中元・歳暮は現在は一切やっていない」(担当者)という。
 また、中小企業のなかには、厳しい経営環境が続くため、4月の新卒者採用を見送らざるを得ず、したがって入社式も開催できないというケースも見られる。一方で、中高年社員の「肩叩き」も増加。勤続20年、30年というのは昔話となり、永年勤続社員表彰も盛り上がりに欠けるものとなってきたようだ。
 最後に、社員の意識変化。「個人主義」が流行りだしてきて、参加も強制される社内行事は若手社員を中心に敬遠されるようになってきた。慰安旅行や社内スポーツ大会などを取りやめたり、規模を縮小しているのは、経費節減はもちろんのこと、社員のあいだでの評判が芳しくないためでもある。新年会、行事にも同様のことがあてはまる。そういう雰囲気を察してか、企業側の意識も変わってきたようだ。




21世紀の“社内行事”の姿はどうなっていくのか?
 
 このように社員にそっぽを向かれる社内行事だが、21世紀にはどのようになってしまうのか。
 「新年初出式や入社式など、会社としてケジメをつけたい定例行事は形としてそれほど変わらないと思われますが、慰安旅行など福利厚生関係行事は変わっていくでしょう。一方でカフェテリアプランの普及などに見られるように、最近の社員は他人から強制されるものには反発するけど、自分で選んで決めたものは素直に受け入れている。こうしたことから、企業としても従来のような全社挙げて実施するケースは極力減らし、部や課のグループごとに、お金は出すから好きなところに行っていいなどと押しつけでなしに選択させるようなやり方が多くなるのではないでしょうか」(越智氏)
 21世紀の幕開けを機に、自社の社内行事を見直してはどうか。



(イラストレーション=木佐森隆平)




TOP
 記事のTOPに戻る